我家

与謝野晶子

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崖の上にも街、 崖の下にも街、 尺蠖虫の如く その間を這ふ細き小路は 坑道よりも薄暗し。 我家は小路に沿ひて、 更に一段低き窪にあり。 門を覗きて斜めに 人も、我も 横穴の悒欝を思ふ。 門と玄関との間、 両側に立つ痩せし樫の幹は 土中より出でし骨の如くに黒み、 その灰色する疎らなる枝は 鉛の静脈を空に張れり。 我家は佝僂病者なり、 その内部は暗く屈みて 常に太陽を見ず、 陰湿の空気壁に沁みて 菊の香の如く苦し。 さもあらばあれ、我は愛す、 我家の傷ましく淋しきを。 精舎と行者との如く、 同じ忍辱の中に 人と家とは黙し合ふ。 さて、我家にも、 二階の障子に 朝の日の射す片時あり、 見給へこの稀なる 我家の桃色の笑顔を。

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