永き別れ

与謝野晶子

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発車前三分…… 我は更に戦きて 汽車の窓に歩み寄る。 発車前三分…… 中なる人も 湿みたる目に見下ろし、 痙攣る如く手を伸べぬ。 いかで、我等に残るこの束の間、 猶吸はばや、君が心を、 君が※を、君が香を。 発車前三分 はた、わが命のため、 捉へて我目に留めばや、 君が顔を、君が姿を。 狂ほしくなれる我は 君が手の上に はげしき接吻を押して、 思はず、きと噛みぬ。 おゝ、今、基督の其れの如く、 わが脈管を伝ひて拡がるは 君が聖なる血の一滴…… 汽笛は空気を裂く。 時なり、汽車は動き、 二度と来らぬ旅人の 君は遠く去り行く…… さはれ匂はしき記憶よ、 証せかし、常に猶、 我が衷に君の在るを。

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