宿屋

与謝野晶子

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八番の客人の室に 行き給へ、われに用なき 君なりと、いとあらゝかに 云ふめるは、この朝日屋の 中二階赤ら顔なる 宿ぬしの住ふ部屋より もるゝ声、腹立ちの声。 小田原の小住と云ひし 宿の妻、夕方ときし 洗ひ髪しづくのたるを いとへれば椽にたゝずみ 大嶋の灯など見るらし。 水いろの絽の染裕衣 繻子の帯風に吹かるゝ。 いまだなほ去にをらずやと 蚊帳の人云ふのゝしれど、 もの云はず蚊うつ団扇の はた/\と音するばかり。 若い衆の風呂仕まひする 唄の声何を云ひしか この女闇にほゝ笑む。

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