廣瀬川

土井晩翠

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都の塵を逃れ來て 今わが歸る故郷の 夕凉しき廣瀬川 野薔薇の薫り消え失せて 昨日の春は跡も無き 岸に無言の身はひとり。 時をも忘れ身も忘れ 心も空に佇ずめば 風は凉しく影冴えて 雲間を洩るゝ夏の月 一輪霞む朧夜の 花の夢いまいづこぞや。 憂よ思よ一春の 過ぎて跡なき夢のごと にがき涙もおもほへば 今に無量の味はあり 浮世を捨てゝおくつきの 暗にとこしへ眠らんと 願ひしそれも幸なりき。 流はゆるし水清し 樂の、光の、波のまに すゞしく澄める夜半の月、 あゝ自然の心こゝろにて 胸に思のなかりせば 樂しかるべき人の世を。

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