蠅の唱歌

萩原朔太郎

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春はどこまできたか 春はそこまできて櫻の匂ひをかぐはせた 子供たちのさけびは野に山に はるやま見れば白い浮雲がながれてゐる。 さうして私の心はなみだをおぼえる いつもおとなしくひとりで遊んでゐる私のこころだ この心はさびしい この心はわかき少年の昔より 私のいのちに日影をおとした しだいにおほきくなる孤獨の日かげ おそろしい憂鬱の日かげはひろがる。 いま室内にひとりで坐つて 暮れゆくたましひの日かげをみつめる そのためいきはさびしくして とどまる蠅のやうに力がない しづかに暮れてゆく春の夕日の中を 私のいのちは力なくさまよひあるき 私のいのちは窓の硝子にとどまりて たよりなき子供等のすすりなく唱歌をきいた。

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