艶めかしい墓場

萩原朔太郎

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風は柳を吹いてゐます どこにこんな薄暗い墓地の景色があるのだらう。 なめくぢは垣根を這ひあがり みはらしの方から生あつたかい潮みづがにほつてくる。 どうして貴女はここに來たの やさしい 青ざめた 草のやうにふしぎな影よ 貴女は貝でもない 雉でもない 猫でもない さうしてさびしげなる亡靈よ 貴女のさまよふからだの影から まづしい漁村の裏通りで 魚のくさつた臭ひがする その腸は日にとけてどろどろと生臭く かなしく せつなく ほんとにたへがたい哀傷のにほひである。 ああ この春夜のやうになまぬるく べにいろのあでやかな着物をきてさまよふひとよ 妹のやうにやさしいひとよ それは墓場の月でもない 燐でもない 影でもない 眞理でもない さうしてただなんといふ悲しさだらう。 かうして私の生命や肉體はくさつてゆき 「虚無」のおぼろげな景色のかげで 艶めかしくも ねばねばとしなだれて居るのですよ。

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