虎
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虎なり
曠茫として巨像の如く
百貨店上屋階の檻に眠れど
汝はもと機械に非ず
牙齒もて肉を食ひ裂くとも
いかんぞ人間の物理を知らむ。
見よ 穹窿に煤煙ながれ
工場區街の屋根屋根より
悲しき汽笛は響き渡る。
虎なり
虎なり
午後なり
廣告風船は高く揚りて
薄暮に迫る都會の空
高層建築の上に遠く坐りて
汝は旗の如くに飢ゑたるかな。
杳として眺望すれば
街路を這ひ行く蛆蟲ども
生きたる食餌を暗鬱にせり。
虎なり
昇降機械の往復する
東京市中繁華の屋根に
琥珀の斑なる毛皮をきて
曠野の如くに寂しむもの。
虎なり!
ああすべて汝の殘像
虚空のむなしき全景たり。
――銀座松坂屋の屋上にて――
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