散歩(『かげろふ断章』収録・同題第2篇)
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忘れ河の河のほとりを微笑みながら歩いてゐる男がある。もうみんな生きてゐた時の記憶は忘れてしまつたらしい。それなのにその男は相変らずいゝ機嫌で歩いてゐる。まるでいたづらな小娘のやうに微笑みながら、何かめつけようとしてゐる彼の眼や、たえず喋らうとしてゐる彼の唇がある。涼しい太陽が靄の中を流れ、彼もたつた今目が覚めたばかりなのだ。もう一度睡くなつたら睡るばかりだ。
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