幻影

蒲原有明

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われただひとり佇みて 聽けば寂しやささやきを、―― そは白き日の洩すなる 天のささやき、遠海に。 幽かなれどもあきらかに、 しづかなれども燦めきて、 輝く天のささやきの 解きがたきかな、遠海に。 嗚呼高き虚空、遠き海、 際涯なきものの世にふたつ、 かたみにあぐる盞に 光あふるる虹の色。 酌めるは何のうまざけぞ、 この世ならざる歡樂の まよはし纒ふ眞白手に 祕めて釀みけむ戀の酒。 眞晝は滿ちてかがやけど、 誰か來りて白銀の 天のひかりのささやきを かの遠うみに慕ひよる。 そのささやきを解きてこそ、 さてこそ星のいただきに、 かしこに百合の園ありて、 薫香いかにと知るべけれ。 さてこそ、海は飜へり、 潮は華とみだれちり、 ゆたかにうかぶ鹽漚に 化りしすがたも趁ふべけれ。 幻影なれば觸れがたく、 ただ華やかに身をめぐる、―― 解きしは、さても知りつるは 何ぞ、いかなる祕事ぞ。 さめてはすべて言ひがたし、 慕ふのみ、はた、忍ぶのみ、―― 幻影なれば移ろひぬ、 眞晝もやがて傾きぬ。 今眼に入れるかげ見れば 小甕は浪に燃え浮び、 甕のおもてはかがやきて 火もて描ける火の少女。 幻影はげにここに盡き、 小甕は浪に沈むとき、 わが身――焔の琴の絃 火の小指もて誰か彈くべき。

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