冬の夜

北原白秋

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浪の音だ。まさしく、 ざざんさと寄せてる。 ねむれよ、ねむれよと。 ねむれよ、息づかひも、 毛帽子のをさな児、 耳たぶの紅さ見せて。 深めよ、日のまぼろし、 冬はただ寂びるを、 また、風よ光よと。 ああ、それに月の蟹、 茶の花も白かつたに、 父と子とが観てたに。 潮ぐもりの燻しが さむざむと満ちる、これから、 蜆いろの沖にも。 過ぎたよ、星の座に、 照りはえた火の渦、 昨夜のうつくしい野火も。 ねむれよ、円きくるぶし、 ちひさな毛のくつした、 腕椅子の揺り床。 浪の音だ。まさしく、 ざざんさと寄せてる。 ねむれよ、ねむれよと。 註 西の国にては、月面の影をば蟹と観る習俗あり。

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