地獄極楽

北原白秋

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『御覧ぢやい、まづ。』と濁ごゑ 屋根低き山家の土間は 魚燈油のくすぶり赤く、 人いきれ、重き夜霧に 朦朦と地獄の光景 現じいづ。―あはれ鞭指し、 案内者は茶いろの頭巾 殊勝げに念仏ぞすなる。 木戸にまた高く札うち、 蓮葉なる金切ごゑと 老いたるが絶えず客よぶ、―― と見る、ただ赤丹剥げたる 閻魔王、青き牛頭馬頭、 講釈のなかばいちどに がくがくと下顎鳴らす。―― 『評判の地獄極楽。』 胸わるき油煙のにほひ 女子らが汗に蒸されて、 焦熱のこころあかあか 火の車、または釜うで、 餓鬼道の叫喚さながら 人人が苦悩を醸す。 さはれ、なほ爺は真面目に 諳誦す、業の輪廻を。 盂蘭盆の寺町通、 猿芝居幕のあひまか 喇叭節みだらに囃す。―― うち湿る沈の青みを 稚子あそぶ賽の河原は、 長長と因果こそ説け、 『なまいだぶ。』こゑもあはれに、 かたのごと、涙を流す。 ひと巡り、はやも極楽、 絵灯籠紅き出口は 華やげ楼閣そびえ、 頻伽鳥鳴けり。この時、 酒の香す、懐がくり 徳利嘗め、けろり鐸ふる、 太鼻の油汗見よ。 『先様はこれでお代り。』

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