暗愁

北原白秋

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なにごとぞ、夕まぐれ、人はさわさわ、 新開のはづれなる坂のあき地に うづくまる。そこ、ここに煉瓦、石灰、 高草の黄にまじり、風ぞ冷えたる。 灰色のまろき石子らはまろがし 据ゑ、やをら爪立ちぬ、爺が肩より のぞき見す。――様様のくらき呼声 世のほかの町の闇ひさぐ気遠さ。 古井あり、桁はみなくづれゆがみて 桔槹ギロチンの骨とそびやぎ、 血はながる。赤ばみし蛇のぬけがら さかしまに下はこれ暗き死の洞。 人はみなめづらかに首つきいだし おづおづと環ぞ退る。あはれ男子ら 三人まで影薄う青み入りぬれ、 そよとだに腰綱の端もひびかず。 時や疾し、ひよろひよろの青洋服は わと前へ面がはり、のめり泳ぎつ。 と見ぬ、いま、むくむくと臭き瓦斯の香 町や蔽ふ、みるがまに黄ばむ天色。 驚破と、見よ、街道へまろびなだれて 西日する町の屋根、高き耶蘇寺、 ふりあふぎ人はみな面冷えぬれ。 風さらにひややかに草をわたりぬ。 灯ぞともる、支那床の玻璃に人見え、 あかあかと末広に光凍れば、 古煉瓦うづだかき原のくまぐま、 ほそぼそとこほろぎの鳴く音洩れぬる。

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