銃猟

北原白秋

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子供はふいと泣き出した、 声を放つて。…… 燦爛と海は今光りかがやく、 何ものぞ、空を飛び翔るは、 ただ、これ一面のうねりなり、泣くによしなき 銀の油の溶け合はむ、照り反さんと狂ふのみ。 凡ては眩し、痛々し、笑ふよしなし、 小船は動き、輪に廻り、また一線に歎けども 落ちつかむ、狙ひ射たむとぞ燥れども、 照星は照尺を超え、 銀の櫓櫂は日輪光に欺かる。 光りかがやく何物かまた飛びめぐる、 雲母摺なる空高く、また、低く、 恐怖は銀の翼より響を拡げ、 声なき舟は一心に波に燦めく。 銃音響く、弾丸は光れり、―― 快き手ごたへは空に驚く、 耀は矢と飛び下る。 擾乱は水面に起つ。 凡ては眩し、痛々し、笑ふよしなし、 傷ける鳥と狂へる舟は 燦爛赫耀、 今こそ互に相憎め、言葉なき言葉激しく、 さてしばし、 深くひそめる鳥はまた飛び去らむとし、 たちまちに眼をつらぬかる。 玲瓏たり、燦爛たり、不尽の山、 麗らや大海はるかに辷りあがる。 消防渚に整列し、 まづ不尽山に一礼す。 纏は金的、梯子は青竹、 てつぺん玲瓏、人間さんらん、 はつと逆さで大の字形。 耀く人数はかたまりころげて しみじみ喞筒をうち動かす。 喞筒は一台、一念、一向 喞筒の水はりうりうたり 玲瓏たり、さんらんたり、不尽の山、 喞筒の筒口りうりうたり。 水はひとずぢ、真実一心、 専ら目的は不尽の山、 弾き飛ばした、ぶん流せ。 よしか、それきた、 動かす喞筒は飛び切り上等。 りうりうたり、さんらんたり。 驚き飛び立つ千鳥と鴎。 それ、雪がけし飛ぶ、 愈霊山が流れるぞ。 玲瓏たり燦爛たり、相模灘、 もう一息だぞ、えんやらえんや。 真実一念、十方玲瓏、 喞筒の水はりうりうたり、 れいろうたり、さんらんたり、 えんやらえんや、えんやらえんや、 消防整列、一心一向、 消えて失くなれ不尽の山、やあれ、やあれ、えんやらな。…… 盥は数知れず光に動く。 盥の上には子供座れり、 裸の子供は腕をひろげて 盥を廻す。晴れわたる海の面に。 正午なり、深くひそめる 精霊の醒めゆく時なり、 銀星は空にあらはれ、 麗はしき人ごゑは湾にあつまる。 盥はしづかに迅さを増す。 盥は光れり、独楽のごとく、 一斉に、燦爛たるその飛沫。 夏なり、碧瑠璃の海は 円く、緑の崖をうつす、 天心にかゞやくは、一の日輪。 その時ふと、笑ごゑは中より起る。 大きく大きく、笑ひくづるゝ純真。 小笠原にて 大きなる月は まんまろく転び出でたり。 護謨の葉は豊かに動く。 いざや歩まん、二人して。 生洲には瑠璃のさゞなみ、 ゆれゆれて金の輪となる、 ああいまし、 麗くしき玳瑁の雄は 雌の上にそつと重なる。 静かなれ、深く潜めかし、 月はいま蒼き暈きる、 磯煙草みどりにゆらぐ。 ああ、しばし 玳瑁は幸福に住む。 声もなし、さあれ、うつくし、 何物か、光りとろけて 霊をゆするがごとし、 玳瑁はふたつ重なる。 護謨の葉は豊かに動く。 いざや眠むらん、二人して。

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