かりそめのなやみ

北原白秋

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ゆく春のかりそめのなやみゆゑ びいどろの薄き罎に 肉桂水を入れて欲し、 カステラの欲し。 鉛の汽車の玩具は 紫の目に痛し。 銀紙を透かせば黒し、 わが乳母の乳くびも汚なし。 硝子戸に日の射せば ザボンの白い花ちりかかり、 なんとなう温かうして心空腹じ。 カステラをふくみつつ、その黄いろなる、 われはかの君をぞ思ふ、 柔かき手のひらのなつかし。 小さきその肩のなつかし。 かかる日に、かかる日に、 からし菜の果をとりて泣く人の その肩に手を置きて、 手を置きて、ただ何となく寄り添ひてまし。

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