濁江の空

北原白秋

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腐れたる林檎の如き日のにほひ 円らに、さあれ、光なく甘げに沈む 晩春の濁重たき靄の内、 ふと、カキ色の軽気球くだるけはひす。 遠方の曇れる都市の屋根の色 たゆげに仰ぐ人はいま鈍くもきかむ、 濁江のねぶたき、あるは、やや赤き にほひの空のいづこにか洩るる鉄の音。 なやましき、さは江の泥の沈澱より あかるともなき灰紅の帆のふくらみに 伝へくる潜水夫が作業にか、 饐えたる吐息そこはかと水面に黄ばむ。 河岸になほ物見る子らはうづくまり、 はや倦ましげに人形をそが手に泣かす。 日暮どき、入日に濁る靄の内、 また、ふくらかに軽気球くだるけはひす。 四十一年八月

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