霊場詣
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行けかし、さらば南国の番の御寺へ。
春なれば街の少女が華やぎに、
君も交りて美しう、恋の祈誓の
初旅や笈摺すがた鈴ふりて、
大野のみなみ、菜の花の黄金海透く
筑紫みち列もあえかのいろどりに
御詠歌流し麗うらと練りも続く日、
軟かぜに絵日傘あぐる若菜摘、
法師、馬上の騎士たちも照りつ乱れつ
菅笠に蝶も縺るる暖かさ。
はじめ御山の清水寺。
風雅古る代の絵すがたか、杉の深みの
薄ざくら花も散りかふ古みちを、
六部、道心、わか尼のうれひしづしづ
鉦うつや、袖も湿ふゆきずりに
霊場詣、杖かろく、番の歌ごゑ
華やかに、巡礼衆が浮あゆみ、
峡は葉洩れの日のわかさ、風も霞みて、
春の雲白ういざよふ静けさに
鶯鳴けば、ちらちらと対の袂へ
笈摺へ、薄ら花ちるうららかさ。
かくて霊地の荘厳に古き杉立つ
大木の霧の石階ほの青み、
白日の灯ともる奥深さ、遠みかしこみ
絵馬堂へ、――桜またちる菅笠や、
音羽の滝に紅の唇も嗽がむ
街少女、思もわかき瞳して
御堂のまへの静寂に鈴ふりならび
ぬかづくや、金の香炉の薄けぶり、
羅蓋蓮華の闇縫うてほのかにそらへ
星の如仏龕に光る燈明の
不断の燻り、内陣の尊さ深さ、
先達に連れて献ぐる歌ごゑも
後世安楽の願かけて巡る比丘らが
罪ならず、恋の風流の遍歴に、
心も空も美しうあこがれいでし
君なればそぞろ涙も薫るらむ。――
あるは月夜の黄金みち、菜の花ぞらの
星あかり朧ろ煌めく野の靄に、
鬢の香吹かれ仄白う急ぐ楽しさ、
灯は街に、――しだれ柳の樾路は
紅提灯の軒つづき、桃も鄙めく
雛祭、店のあかみに伏眼して
奉謝を乞はむ巡礼の清しさ、わかさ、
夕霧に若人忍ぶそぞろきも
艶めかぬほど、頬にゑみて鈴もほそぼそ
「普陀落や」練れば戸ごとの老御達
春のひと夜の結縁に招ぜむ杖と
白髪ふり、転び、袖とる殊勝さや。――
行けかし、さらば南国の番の御寺へ
春なれば街の習慣美しむ
恋の祈誓の初旅や、母にわかれて
少女らと、朝な夕なの花巡り、
やがて遍路の悲愁に雲も騒立ち
花ちらふ卯月とならば故さとへ、
ああ妻なよび髪ねびて、我恋ひ待てる
新室に帰りこよかし、いざさらば、
弥生はじめの燕、袖すり光る
麗ら日を、君も行くかよ、杖あげて、
南無や大悲の観世音、守らせたまへ、
朝風に、ああ巡礼の鹿島立ち。
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