水仙と菊

北原白秋

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 窻掛の絹寒冷紗、硝子扉の外の短か日、短か日の斜の陽ざし。窻掛の絹寒冷紗、其蔭の水仙と菊、鉢台の薄玻璃の壺。今朝咲きし一重水仙、いつの日か挿しし寒菊。冷たくて白き水仙、やや温く黄なる寒菊。水仙の青の葉は張り、寒菊の葉は半ば枯る。水仙は水仙の影、寒菊は寒菊の影、その壺も玻璃の影して、栗色の砂壁に在り。硝子透き、窻掛を透き、斜め陽の明るみぎりは冬もなほいつくしく見ゆ、頼無き影としもなし、柔かく親しかりけり。薄玻璃の影もゆらげり。妻とゐる二階の書斎、午過ぎはただ閑かなり。湯沸のふき立つる湯気、わがふかす煙草のけむり、また揺れてその壁にあり。妻の影、わが影もあり。水仙と寒菊の花、現身に正眼に見れば、まこと今あはれなりけり。水仙と寒菊の影、現なく映らふ観れば現なし、寂しかりけり。近々と啼き翔る鵯、遠々とひびく浪の音。誰か世を常なしと云ふ、久しとも愛しとも思へ。山に住み世に離るとも、全く世を厭ふにあらず、五月蠅やと切に思へど、人来ねばたづきも知らず、妻と我、二人居れども、かくてあれども、時をりはただ寂しくて眼を見合せぬ。

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