幽潭
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あはれ、こはもの静かなる幽潭の
深みの心――おもむろに瀞みて濁る
波もなき胎のにほひの水の面。
をりをり鈍き蛇のむれ首もたぐれど
いささかの音だに立てず、なべてみな
重たき脳の、幽鬱の色して曇る。
さるほどに日も暮がたとなりぬれば、
あたりの樟の薄ら闇しのびにつのる
灰色の妖女の冷やきうすわらひ。
さあれど、ゆるにしづしづと髪曳きうかぶ
底の主面はかたく縛られて、
ただほの白き身をなかば、水よりいづる。
ややありて、息吹のゆめもやはらかに、
盲ひし空をうちあふぎ、管かたぶけて
吹きいづる石鹸の玉の泡のいろ
ひとつびとつに円らかに紅みてのぼる、
これやかの若くいみじき血のにほひ。
かくしてものの静やかにひとときあまり。
ふと、ひらく汀の瞳くろぐろと、
冷やにならびうかがへる妖女のつらね
肋骨の相摩るごとき笑して
灰色の髪音もなくさばくと見れば、
そこここに首もたげゆく蛇のむれ、
ああまたもとの幽鬱に主消えしづむ。
かくてまた、鈍く曇れる水の面、
濁れる胎のもの孕む音ともなしに、
静寂の深みに呻く夜の色。
ほど経て声も消えゆけば、ああ見よ、いまし
幽潭の鈍める空にあかあかと
のぼれる玉か、数しれぬ幾千万の新星の華。
四十一年六月
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