幽靈

北原白秋

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覺醒むれば しんしんと水の音近し、 わが乳母の心音かそは 夜は暗く……耳鳴す……青葱畑…… いづこにか夜芝居の篠きこゆ、本釣きこゆ、 恐ろしき道すがらその肩にかぢりつき、 手をのべてからめども、首すぢは『お岩』のごとく、 髮のけの青かりしかな、韮の香の噎さへしつ。 月もなく、星もなし、 然れども或るものは戲れのごと 黄なる毛のにほひして走り過ぐ―― わが乳母の魂ぎりし聲、 ゆくりなく、眼に入りし 蒼き火の光なき幻影。 銀色の憂鬱に、夜は青く輝きわたり、 しんしんと水の音冴えつ。 倒れしは、わが乳母か、息絶えしその背より ふと見れば 幽靈は冷やかにほほゑみぬ。――あなやそは乳母。

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