和蘭陀石竹のかげに
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一 ペン
ペンをとらなければならない。ささくれたペンを。孤独がわたしに命じた。書け、と。あの五月の闇の蕭やかさのなかで書いた、いくつかのもの欲しげな、独居の詩。辛うじて、それでも書きとめてきたのだ。わたしは。――「天使園の薔薇」だの「乖離」、「哀訴」だの、それに、「Sine qua non」だのと。
(しかしそれらの中に沈んでゐるのは、孤独の滓ではない。ひどく華やいだ、むしろ孤独怡悦の神の、――隠微な擬態だつたやうだ)孤独よ、これは宥せ。
二 検索
かりに額に掌をさしあてて、呟いてみた。
…「百舎重※して来る」
すると孤独は、そのやうに、遠方にあると思はれもする。孤独は鹹つぱくて、岩塩かなんぞのやうに手荒くある。実験室の甘汞よりも、もつと白いものであるかもしれぬ。――ゆふぐれの中で、求道者の匂ひの漂ふ、和蘭陀石竹。翳つた邈漠たる、その色。そこらあたりに、ひよつこり彳んでゐるのかもしれない。孤独は。
憗ひに、詩のなかに姿をおとすときは、はなはだ書割のとぼしい、間遠な姿の、うそ寒いものばかり。わたしの孤独よ。(おまへはそれに似てゐる)
三 烟草のから
水に涵つた桃林を、人は雨外套の襟をたてて足ばやに、暗いはうへ消えていつた。
その後姿に、薫ゆらすとみえた、紫煙のけむの一片。それが白い。ぽんと、抛げすてられたその殻。地におちて、なほ燻る余燼。――もはや夜の大地が、こんな小つぽけな烟草を薫ゆらせてゐると、みえないことはない。
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