淡彩
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1
ひと冬、咳きこんでゐた公園の噴水。いまは枯れがれにおとろへて、春の日ざしを浴びる。そこから、なにの言葉も聴かれない。
噴水のうへを斜に、――鶺鴒まがひの痩せた小禽がひとつ、青磁いろの一線を曳いて、さむくおちていつた。なにの言葉ものこらない。なにの囁きすらも。――去つてゆく冬の使節、いまはこゑを嚥む歟と。…
2
並木路は、まだ芽ぶかぬ白楊。
その首のめぐりはいつせいに痩せて、ほんのちよつぴり、冬の襟巻に肖た雲の片はしをまとつてゐるといふだけ。この灰いろの襟巻。ふゆの遺産。――そこに、まだ春のことぶれはとほい。道ゆく犬も、子供を載せた乳母車も、その乳母車ひく母親も、われとわが影を踏んで、あるいてゆく…
3
廃館になつた領事館のまへで折れて、海へおちる道。――あをく摺まれた海の夢が、とほい惝怳を乗せて万里の潮を、しろくあげてゐる。
ゆふぐれを背負つて、その坂のうへから自転車に跨つた、臙脂いろのワン・ピイス・ドレスのをんなひとり、身をひるがへすやうにおりてくる。――おりてくる自転車。跨つたものは、すでに一個の、無心の物体である。もし、さうでないとするなら、あれは、冬の石女にちがひない。
4
ヒマラヤ杉のうへに、日ざし弱い、ま昼の太陽がやすんでゐる。雀一羽すら、そこへはやつてこない。おしだまつて、ものに倦んじた時のながれが、目にみえぬ迅さで、逭げてゆくだけである。
ヒマラヤ杉の下のベンチ。目なれた浮浪者のかげすら、そこへやつてこない。気おちした、老人の精神が、トゥルゲーニエフの散文詩ふうの外套をまとつて、そこに腰をおろしてゐるだけである。――全く、まつたく、それは、わたしが置きわすれた詩の、うらぶれた⦅残像⦆のすがたであると、告げたい。
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