一〇九〇〔何をやっても間に合はない〕(『詩ノート』収録)

宮沢賢治

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何をやっても間に合はない 世界ぜんたい間に合はない その親愛な仲間のひとり     また稲びかり 雑誌を読んで兎を飼って その兎の眼が赤くうるんで 草もたべれば小鳥みたいに啼きもする     何といふ北の暗さだ     また一ぺんに叩くのだらう さうしてそれも間に合はない 貧しい小屋の軒下に 自分で作った巣箱に入れて 兎が十もならんでゐた 外套のかたちした オリーブいろの縮のシャツに 長靴をはき 頬のあかるいその青年が 裏の方から走って来て はげしい雨にぬれながら わたくしの訪ねる家を教へた わたくしが訪ねるその人と 縮れた髪も眼も物云ひもそっくりな その人が わたくしを知ってるやうにわらひながら 詳しくみちを教へてくれた ああ家の中は暗くて藁を打つ気持にもなれず 雨のなかを表に出れば兎はなかず 所在ない所在ないそのひとよ きっとわたくしの訪ねる者が 笑っていふにちがひない 「あゝ 従兄すか。 さっぱり仕事稼がなぃで のらくらもので。」 世界ぜんたい何をやっても間に合はない その親愛な近代文明と新な文化の過渡期のひとよ

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