一〇二九〔あんまり黒緑なうろこ松の梢なので〕

宮沢賢治

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一九二七、四、五、 あんまり黒緑なうろこ松の梢なので そのいちいちの枝も針もとがりとがり そこにつめたい風の狗が吠え あめはつぶつぶ降ってくる いまいったい何時なのだらう 今日は日が出てゐないのでわからない けれども鉛筆を掌にたてて 薄い影ぐらゐはできるだらう いやかう立ててはいけない もっと臥せて掌に近くしなければだめだ あんまり西だ もう午ちかいつかれや胸の熱しやうなのに 鉛筆を臥せてはいけないのだ それは投影になるためだ 向ふの橋の東袂へ影が落ちれば 大ていひるまにきまってゐる こんど磁石をもってきて 北を何かに固定しよう けれどもそれは畑のなかでの位置によってもちがひがある いやさうでない なるべく遠い 山の青びかりする尖端とか 氷河の稜とかをとりさへすれば わづかな誤差で済む 風が東にかはれば その重くなつかしい春の雲の縞が ゆるやかにゆるやかに北へながれる

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