機關車

三好達治

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 機關車がとまつた、ごくんと一つ吃逆をして機關車がとまつてしまつた。斷崖にかけた勾配の途中。波が聞える、また波が碎ける。海は遠く煙つてゐる。客車の窓から首が出る、肩がのり出る。海の上を燕が飛んでゐる。機關車の釜鳴りが、月夜の夜蝉のやうだ。やがてそれもかすれて行く。しんと鳴りをしづめてしまふ。まるで列車が玩具のやうに思はれる。たまたま風景絶佳、草の中から蟲が啼きはじめる、巖の上に天牛蟲がゐる。……人はめいめい、自分らの到着驛をかんがへる。機關車の方で聲がする、聲がもつれる、風が吹く。少少ひまがかかるらしい。子供がデッキに立つて海を見てゐる、飴玉をしやぶりながら。渚に人が集る、五人六人漁村の男女がこちらを見て話し合つてゐる。その一人の胸から、猫が一匹ひらりと濱にとび下りる。  軌條に空が映つてゐる、それを前にして機關車がとまつてゐる。淡い煙を吐いて、背中に陽炎をたてて、黒く光つた機關車に、機關手が金槌をあててゐる。そして何だか仲間に呼びかけてゐる。そいつを眺めながら、火夫が二人草の上に腰を下ろしてゐる、頸筋に手拭をかけて。  捕鯨船ですよ、――と誰かが云ふ。なるほど變な形の船が沖を渡つてゐる。もしもあの船から、あの船の甲板から望遠鏡を翳して、誰か監視者がこちらをもしも眺めてゐるとしたら……。

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