地獄の刷繪

室生犀星

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電車のなかで わたしは耐らなくなつて 目をおとしてゐた 覗くまいと思つても こらへてゐても つい見てしまふのだ 十七くらゐの少女で 左の頬に黒い痣がみにくく目立つた 優しい目つきで 二重瞼になつて色も白かつた 左の手で吊革をもち 學校の道具で その頬を覆うてゐるのだ なるべく人に覗かれまいとしてゐる 心はすこしも油斷をしてゐない 優しい目でありながら きりつとしてゐる 右の頬は白く美しい 左のそれにくらべて天國のやうに美しい それだのに左の頬は暗く地にずり落ちてゐる 私は見まいとする するほどなほ覗かうとしてゐる 電車のなかで わたしは耐らなくなつて 窓へ向きをかへ できるだけ忘れようとした 覗くまいとした

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