孝子実伝
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ちちのみの父を負ふもの
ひとのみの肉と骨とを負ふもの
きみはゆくゆく涙をながし
そのあつき氷を踏み
夜明けむとするふるさとに
あらゆるものを血まみれにする
萩原朔太郎
千九百十七年九月二十三日のまだ夜の明けぬうちに私はその最愛の父を失うた。父は真言宗の一僧都としてのその神の如き生涯の中、私を愛し私の詩作をはげました。父の世にあるうち此詩集をひと目見せたいといふ切な願望は、もはや明らかに失はれてゐた。父のそばに机を置いて詩をかいたことを思へば私は童顔白皙な額にその微笑を思ひ出すのだ。だれしも肉親をもつものの必然な運命とは思ひながら、私はいまさらに私の失うた愛は甚だ大きいものであることを知つた。これを父上におくる。
爾曹なにを願ふや鞭を以て我なんぢに至ることを願ふ乎。また愛と柔和の心を以て至ることを願ふ乎。
哥林多前書四ノ二十一
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