墓詣
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過し世の蟲ばみし物の本
ふと読むまゝになつかしく
作者のこともおもはれて
ふけ行く秋の昼さがり
その墳墓をたづぬるに
場末の町のいくまがり
小家つゞきの道のはて
子供のさわぐ浄土寺
苔と落葉に埋れて
かけし地蔵ともろともに
はかなく残る石ひとつ。
手向の花をさす竹の
筒もくさりて石ぶみの
文字も月日に消されたり。
南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。
忘却の安けき国に遊べる君よ
歎き給ふな弔ふ人なき寂しさを。
君むしろ喜びたまへ
君が作品君が生涯
傷けられず皆そのまゝに残されて
現代文士が研究の
おそろしき犠牲とならざるを。
現代文士の研究は
君知らずや
わが名のために人の名を
砕きて食ふものなるを。
昼顔つゆ草猫ぢやらし
まかぬに生る草の花
これぞ手向の花なれや。
藪蚊こほろぎ絶間なく
寂滅為楽を唱へたり。
あゝ。忘られし君が墳墓の静けさよ。
願くはわが身の上にも疾く来れかし。
この静寂とこの果敢さの疾く来れかし。
ひと日も早く。
南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。
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