ハーモニカ
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夜店の町のあかりさへ
二人は避けてそれとなく
抜ける横町河岸づたひ
橋にも遠き砂置場
石に腰かけかたりけり。
重く曇りし夏の夜は
宵より早くふけそめて
闇の底行く溝川の
芥のなかの船の灯は
草の葉ずゑの蛍火か。
誰が家の子ぞ折からに
つゞく倉庫の向河岸
古き映画の忘られし
歌の一ふし繰返し
くりかへし吹くハーモニカ。
「アラあの曲は、ねえあなた。
去年の夏も今ごろよ。
あの映画見たかへりみち
雨もふり出す夜の河岸
あなた忘れはしないでしよ。」
「一生僕はわすれない。
その夜記念のプログラム
大事にしまつて持つてゐる。
もしも別れが来た時は
せめてはかない思出に。」
「あなた。わたしの真実を
かたく信じておたがひに
強いこゝろで生きませう。
だけど何だか悲しいわ
どうして泣けてくるんでしよ。」
吹きくる風に行雲の
絶えまに出る八日月。
袖のしづくを照すとも
知らぬ向うのハーモニカ
とぎれては又つゞきけり。
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