ゆきてかへらぬ

中原中也

タグを編集・提案

作品の主題・モチーフなど、対象に固有の情報を登録してください。年代・形式・表記・文学運動などの共通分類は登録できません。会員タグの追加と、正式タグの削除は、5人の支持で自動反映されます。

ログインするとタグの追加・削除を提案できます。

 僕は此の世の果てにゐた。陽は温暖に降り洒ぎ、風は花々揺つてゐた。  木橋の、埃りは終日、沈黙し、ポストは終日赫々と、風車を付けた乳母車、いつも街上に停つてゐた。  棲む人達は子供等は、街上に見えず、僕に一人の縁者なく、風信機の上の空の色、時々見るのが仕事であつた。  さりとて退屈してもゐず、空気の中には蜜があり、物体ではないその蜜は、常住食すに適してゐた。  煙草くらゐは喫つてもみたが、それとて匂ひを好んだばかり。おまけに僕としたことが、戸外でしか吹かさなかつた。  さてわが親しき所有品は、タオル一本。枕は持つてゐたとはいへ、布団ときたらば影だになく、歯刷子くらゐは持つてもゐたが、たつた一冊ある本は、中に何も書いてはなく、時々手にとりその目方、たのしむだけのものだつた。  女たちは、げに慕はしいのではあつたが、一度とて、会ひに行かうと思はなかつた。夢みるだけで沢山だつた。  名状しがたい何物かゞ、たえず僕をば促進し、目的もない僕ながら、希望は胸に高鳴つてゐた。            *             *                   *  林の中には、世にも不思議な公園があつて、不気味な程にもにこやかな、女や子供、男達散歩してゐて、僕に分らぬ言語を話し、僕に分らぬ感情を、表情してゐた。  さてその空には銀色に、蜘蛛の巣が光り輝いてゐた。

ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。

批評・感想 0

作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。

まだ批評・講評はありません。

ゆきてかへらぬの談話

疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。

まだ投稿はありません。

話題を投稿する

ゆきてかへらぬに寄せられた作品

詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。

まだ投稿はありません。

この詩に作品を寄せる