景色

千家元麿

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妻は小供を連れて夕方の買物に出掛けた 今自分の家は實に靜かだ。 自分は裏の空地を見てゐる 景色は澄み切つて動かない 然しそこには目に見え無い活動がある 空地の隅に並んだ木々の逞しい幹が、 一本一本地面から跳り出してゐる 目に見えない運動がどこからか續いてゐる 地中から空中へ日に日に春らしくなる空氣の中で木は調和して來る。 逞しい幹が柔げられてうねりを見せて跳り上るやうに 白い手を地上からのばして傾いてゐる 上の方へ行くと空中で外の木の枝と枝とがしなやかに交つてゐる。 その間に交つて冬から殘つた青葉が 冬の間は忘られてゐたのに、目に立つて生きて來る。 然し 垣根の向ふの、 うしろ向きの家の 黒い屋根の上には無雜作に落葉が散らばつてゐる その上に未だ凍り易い天空の寂寞の色 月でも出相だ 地面は底知れない靜かさでひろがり その上を白犬が 鼻を地面にくつつけて あつち、こつちへよろけ乍ら忙し相に 食を求めてすばしこく走つて行く (三月五日)

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