小景(『自分は見た』収録・同題第3篇)

千家元麿

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爽やかな夕方の往來で 自分は都會から歸つて來る勞働者を迎へる 二人づゝ、或は一人づゝ 長い一本道を歩いて來る。 町の眞中をやつて來る その輕々しい歩みぶりよ、 彼等は黒いはんてんに股引、足袋はだしで 身も輕く身分も輕く 夕闇の中を涼しく歸つて來る 何か友達と並んで話し乍ら、 道の兩側の古着屋や道路より低い時計屋等に 自由に目をくれ乍ら靜かに歩いて來る。 苦るしみのうしろにある深い喜びを 本當によく解して味つて居るやうに 本當に自由な時間と云ふものを知つてゐる樣に こゝらはもう全く彼等の領分だ。 大手をふつて歩けるのだ。 夕風の吹いて來る方には妻や小供が待つて居る 夕闇の中で顏は見え無いが自分は彼等を知つて居る 彼等は寛大で柔和である。女も小供も彼等になつく 空には田圃が近いので夜かせぎに圓こい鳥がセツセと飛んで行く 見榮もなく翅の破れたのや 拔けて落ち相な羽をぶらさげてゐるのがあり/\見える 然うして乘合馬車が、 往來の上に水のやうな空氣の中に二つのランプを輝かして走つて行く 何と云ふ慕しさだ。何と云ふ窮屈のない事だ。 (一八、三、一九)

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