思より思をたどり

島崎藤村

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思より思をたどり 樹下より樹下をつたひ 獨りして遲く歩めば 月今夜幽かに照らす おぼつかな春のかすみに うち煙る夜の靜けさ 仄白き空の鏡は 俤の心地こそすれ 物皆はさやかならねど 鬼の住む暗にもあらず おのづから光は落ちて 吾顏に觸るぞうれしき 其光こゝに映りて 日は見えず八重の雲路に 其影はこゝに宿りて 君見えず遠の山川 思ひやるおぼろおぼろの 天の戸は雲かあらぬか 草も木も眠れるなかに 仰ぎ視て涕を流す

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