*笛の音
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生命の路のもろ側に聳やぎ立てる
『かなしび』の女木、『よろこび』の男木、
今宵さしぐむ月代のまみの濕みに、
すずろに木靈うらびれて、
天の幸夜にあくがるる沈默の深みを、
笛の嘆きの音をいたみ、
上枝そよろに囁やきて散りこそまがへ、
二木の落葉ほろほろに。
『日影にしめらへる
『かなしび』の
一片は黄朽葉の
色に染み。』
『日向にひるがへる
『よろこび』の
一片は緑葉の
香ににほふ。』
『ああ、わが故郷は
聖り世の
沈默ぞ、齋居する
嚴の苑。』
『また、わが本宮は、
箜篌の音の
緒合せ、うちどよむ
美し國。』
『そこしも、黄金なす
『慧』の實、はた
木ぐらき無憂華樹の
葉のにほひ。』
『かしこよ、狹丹づらふ
『愛』の花、
『努力』の常烽火、
日の光り。』
『そこしも、齋き女の
小忌ごろも、
蝋の火、黄金文字、
偈のけはひ。』
『かしこよ、八少女の
をんな樂、
盃誓、さざめ言、
白酒の香。』
『かなたへ、――忌精進、
夜ごもりに、
今はた歸るべき
羽。』といへば、
また言ふ、『かかる夜を、
宴會うつ
かなたへ、――いざ、朱の
赭舟を。』
『苑には、領す神
名こそあれ、
畏こし、あな天の
『あくがれ』女。』
『宜こそ、いまそがる
國つ神、
尊とし、名は天の
『あくがれ』男。』
色音は絶えつ、――醉ひざまの心あがりに、
さざめき散りし飜れ葉は、
糸絡みせし舞の羽の、つと舞ひさして、
噤みぬ、下に落ち敷きぬ。
生命の路に、雌鳥羽に、はた雄鳥羽に、
唇觸れあひて相寢ぬる
伏葉の亂れ、魂合へる美し睦びに、
月は夜すがら見ぞ惚けぬ。
*秋の末つ方月の一夜洛東華頂山
境内に笛の音をききて咏める
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