翡翠の賦

薄田泣菫

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流ゆるき枝河の 根やはら小菅かすれて、 靡葉そよろとさやぐ夕、 眉根しろき罔象の女、 蠱の衣ぬぎ捨に、 童氣すがたに傚ふほとり、 見ずやかなた翡翠の 樹蔭にかくるる征矢の形を。 美しきものは常久に、 可惜身なりや、翡翠の かいまみ許さぬ花のすがた。 照斑あをき冠毛や、 瑠璃色背にながれて、 さながら水曲の水脈にまがひ、 はた長嘴の爪紅は、 零露を啜るにふさひたりな。 葉分の光はだらに、 白き菱の花さして、 樹暗もあからむ眞夏日なか、 水馬うかべる水隱れ、 藻伏小鮒とらへ來て、 朱脛やすらふ柳瑞枝、 したり顏の若音には、 葉守の神さへ醉に入らむ。 蜻蛉田づらに疲れて、 眞菰うら葉にやすらひ、 鼠尾草、鷺草露にぬれて、 匂ひ香しめる水際の 繁みがくれの巣ごもり、 夕月さし入る靜夜には、 夢こそかよへ、御親の 自然の胸なるふかき夢に。 そよやむかし乙姫が ほまれの氏を厭ひて、 尼そぎ艶なる御寺ごもり、 御燈ささぐる夜な夜な、 物忌守りし和魂の 化生か、翡翠人氣見ては、 知らず顏の面もちに、 など然は素氣なく暗に去るや。 高音さへづる雲雀の 天飛ぶ風も戀ひねば、 巣造りさかしき巧み鳥の 里居なづむも傚はず、 寂しいかな川隈の 繁みがなかをば往きかへりて、 噤みがちなる慣ひや、 胸には無量の祕密あらむ。 祕密よ、いかに清らに、 はた尊かる寶や、 水の面に落ちなば花とひらき、 染みて水銹も薫らめど、 散る日げにや惜しからむ。 されば包むに和毛まろう、 聖き龕と胸縫ひて、 まもるに靈ある翼そへぬ。

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