公孫樹下にたちて
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1
ああ日は彼方、伊太利の
七つの丘の古跡や、
圓き柱に照りはえて。
石床しろき囘廊の
きざはし狹に居ぐらせる
青地襤褸の乞食らが、
月を經て來む降誕祭、
市の施物を夢みつつ
ほくそ笑する顏や射む。
ああ日は彼方、北海の
波の穗がしら爪じろに、
ぬすみに獵る蜑が子の
氷雨もよひの日こそ來れ、
幸は足りぬ、と直むきに
南へかへる舟よそひ、
破れし帆脚や照すらむ。
ここには久米の皿山の
巓ごしにさす影を、
肩にまとへる銀杏の樹、
向脛ふとく高らかに、
青きみ空にそそりたる、
見れば鎧へる神の子の
陣に立てるに似たりけり。
2
ここ美作の高原や、
國のさかひの那義山の
谿にこもれる初嵐、
ひと日高みの朝戸出に、
遠く銀杏のかげを見て、
あな誇りかの物めきや、
わが手力は知らじかと、
軍もよひの角笛を、
木木に空門に吹きどよめ、
家の子あまた集へ來て、
黒尾峠の懸路より
風下小野のならび田に、
穗波なびきてさやぐまで、
勢あらく攻めよれば、
あなや大樹のやなぐひの
黄金の矢束鳴だかに、
諸肩つよく搖ぎつつ、
賤しきものの逆らひに、
滅びはつべき吾が世かと、
あざけり笑ふどよもしや、
矢種皆がらかたむけて、
射繼早なるおろし矢に
射ずくめられし北風は、
またも新手をさきがけに
雄詰たかく手突矢の
鏃ひかめく圍みうち。
頃は小春の眞晝すぎ、
因幡ざかひを立ちいでて、
晴れ渡りたる大空を
南の吉備へはしる雲、
白き額をうつぶしに、
下なる邦のあらそひの
なじかはさのみ忙しきと、
心うれひに堪へずして、
顧みがちに急ぐらむ。
黄泉の洞なる戀人に
生命の水を掬ばむと、
七つの關の路守に、
冠と衣を奪はれて、
「あらと」の邦におりゆきし
生身素肌の神の如、
ああ爭ひの七八日、
銀杏は征矢を射つくして、
雄々しや空手眞裸に、
ほまれの創の諸肩を、
さむき入日にいろどりて、
み冬の領にまたがりぬ。
3
ああ名と戀と歡樂と、
夢のもろきにまがふ世に、
いかに雄々しき實在の
眩きばかりの證明ぞや。
夏とことはに絶ゆるなく
青きを枝にかへすとも、
冬とことはに盡くるなく
つねにその葉を震ひ去り、
さては八千歳靈木の
背の創は癒えずして、
戰ひとはに新らしく、
はた勇ましく繰りかへる。
銀杏よ、汝常磐樹の
神のめぐみの緑葉を、
霜に誇るにくらべては、
いかに自然の健兒ぞや。
われら願はく狗兒の
乳のしたたりに媚ぶる如、
心よわくも平和の
小さき名をば呼ばざらむ。
絶ゆる隙なきたたかひに、
馴れし心の驕りこそ、
ながき吾世のながらへの
榮ぞ、價値ぞ、幸福ぞ。
公孫樹よ、汝のかげに來て、
何かも知らぬ睦魂の
よろこび胸に溢るるに、
許せよ、幹をかき抱き、
長き千代にも更へがたの
刹那の醉にあくがれむ。
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