石彫獅子の賦
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1
童子に問へば石工は
木かげに夢を結びぬと。
入りて小闇き仕事場に、
刻みさしつる唐獅子の
圓き頸をかきなでて、
誰ぞ、もの思ふは、ひそやかに。
朽木の棚にすゑられて、
顏くすぼるるあら彫の
豕、狗兒、野の狐、
さては雄鹿のむらがりに、
こはめざましき誇りかな、
日かげにぬるる獅子の影。
裂けつる岩に爪かけて、
雄々し、憤るかその姿、
鬣ながく背にまきて、
見れば湧きよる春の潮。
胸はゆたかに、力男が
曳きしぼりたる弓の如。
忿怒現ずる明王の
ひろき肩より燃えあがる
焔か、ながき尾は躍り、
にこ毛密なる蹠は、
いざよひ薔薇の花ふむも
巣くへる鳥はめざめまじ。
心がまへのいみじさや、
瞳子彫られぬ唐獅子は、
光りを知らぬ盲目の身、
鼻かぐはしき香を嗅ぐも、
いまだ前脚ふみあげて、
花野の路はしだかじな。
鑿の手またく捨てられて、
御苑の夏のあけぼのや、
緑したたる木のかげに、
巨人の如く立たんとき、
雄姿いかに、背に伏して
しばし想像にふけらまし。
2
汝の王者かたどられ、
眞白き石に刻まれぬ。
野より、山より、林より、
つどへよ獸、列なりて
蹄の前にひざまづき、
弱きを恥ぢて僕たれ。
おほき靈魂くだりきて、
眞白き石に包まれぬ。
野より、山より、林より、
つどへよ獸、列なりて
その光輝にぬれぬべく、
蹄の前にひれふせよ。
無上の權威あらはれて、
眞白き石に具せられぬ。
野より、山より、林より、
つどへよ獸、列なりて
王にささぐる蟠祭の
聖き火盤をととのへよ。
斑の牛と羚羊は、
ふかき痛手に甘んじて、
ほのほの中に身を投げよ。
誇るべきかな、犧牲の
高きほまれは汝にあり、
羨む群ぞ愚かなる。
見よ犧牲はそなはりぬ、
獅子は額にたて髮の
ながき流れをふるはせて、
あな起ちあがる、「戰鬪と
勝と力の權化なり、
伏せよ、」と呼べば皆伏しぬ。
さかんなるかな、その言葉、
「神は死ぬめり永久に、
人は魔のごと強からず、
われは王者ぞ、萬有の
値の源ぞ、煩ひと
悶えの胸の主人なり。
ああ運命の眩きをも、
眼ひらきてながめ入り、
胸わななかぬ雄心の
若き勇氣に溢れたる、
勝利のおもひに漲れる
この身この世に何の死ぞ。
絶ゆることなき永遠よ、
われは汝の伴なり」と、
聲は喇叭の音に似たり。
時に默止はやぶられて、
たかき讚美と服從は、
雷のどよみに現はれぬ。
3
いま想像の羽たゆむ。
見れば唐獅子日を浴びて、
ふくよかにまた靜かなる
すがたいかなる誇りぞや。
石彫ながく傳はりて、
榮とならんは幾千歳、
ああ藝術は支配せよ
とはの生命ぞ汝にあり。
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