二月の一夜
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きさらぎ寒のゆふべや、
牧のうなゐも通はね、
眺めよ、寂しき末黒小野に、
ささら河門水かれて、
濕ひ足らぬ荒びや、
艮風のかざ吹、羽むけ強に、
根白たか萱うら葉の
いたづらさやぎにささと鳴りぬ。
かなた天路のはづれに、
白衣の靡きゆららに、
今宵し六日のかたわれ月、
(さはあえかなる病女の
夕眺めするなよびや、)
さ青のまなじり伏目がちに。
吾世すがれの悲み、――
吐息もするやと惑はしむる。
あなせつなさの今宵や、
野もせに靡くさびれの
身に沁み入りては心弱に、
別れし人のおもかげ、
くづをれ泣きし身樣の
それさへ正目にながめられて、
思ひ出いたき昔日の
歎きよ、ふたたび浮び來ぬる。
わが魂の住家は、
大み慈悲の胸なれば、
人の世み冬の今をさむみ、
旅路の小草しをれて、
眺めよ、さのみ荒るるも。
なじかは行方を咀ふべしや、
その御力にひかれて、
吾世を高みの春へこそは。
そこには救世の御佛、
阿摩の如くよりそひて、
おほ慈悲垂乳のいく藥に、
咽の渇きをうるほし、
ま玉なせる掌に、
生身の肌をいたはりつつ
血汐に染める深手を、
癒えよと和らになだめ給ふ
そこしも不壞の新世、
清きものは甦り、
優女も法衣のすがた花に、
菩提樹かづらかざして、
あな和魂の片身やと、
胸乳のふくらみ匾むまでに、
眞白手しかと擁きて、
さこそは注がめ嬉しなみだ。
仇し世空華のながめに、
路惑しを据うるも、
あくがれ心の踴躍いかに
その誘ひに落ちめや。
遠里小野の野越に、
鳩の子古巣にかへるごとく、
わが魂の伸羽こそ、
いづくをゆくへと辨へ知れ。
この末黒野のゆふぐれ、
二月寒のさびれに、
よろづの實母おほみ慈悲の
ふところ深く隱れて、
やがても往かむ彼方の
常春あけぼの望み得るぞ、
吾世の祕密、――憂身の
光や、日も夜も醉ひてあらめ。
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