臨終

薄田泣菫

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夜は更けぬ、灯は青に涙ぐむ。――  病人ひとり―― 火影はあをち消えゆきぬ。  ああくだり闇、 火屑のなげきも弱に――空室に  妖の夜しづむ。 盲目なる『闇』はしのびにうかがひぬ。  病人ひとり―― 熱れしめらふ枕がみ、  まじの裳垂れぬ。 まどろみつ、はた魘されつ。――憑體の  ほほけしここち。 花瓶の陶の白磁の瞟眼して、  見惱ふさまや、 たゆげに闇に息づきて、  ああ今もかも 罌粟の夢くづれぬ。――落ちて仄白に  香にこそにほへ。 『靜寂』のつぶやきか。あな、花びらの  かすけきひびき、 つと仄めきぬ、はた消えぬ。  『熟睡』を隔に、 常つ世にかよりかくよりあくがるる  わが世なりきな。 ほの見つる彼方よ、物のくらきかな。  病人の身は―― さあれ氣ぶかき『靜寂』の、――  罌粟はこぼれぬ、―― 玉ゆらの吐息にしみし移り香は、  えこそ忘れね。 花ははたこぼれじ。――かくて『永劫』は  默しぬ、われに。 危篤ゆる今の束の間を  あな息ぐるし、 魂のさやに脈搏つすぐよかさ、  わが世贏ちにき。

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