つむじ風
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午過ぎぬ。日はわびしげに
四辻の巷にうるみ、
都路はもの疲れして
たゆげにも微睡むここち。
ゆくさ來さ、男女は
夢の野にすずろ往くかに
足ぶみの音もしめりて、
商人は亡き人の名を
想ひいで、はたなつかしみ、
俳優は見ぬ代の樣に
醉ひほれて見とるるここち、
物賣はしずかに噤み、
乞食女も忍びにあゆむ
午さがり。――日はわりなくも
靜心知らず亂れて
つむじ風ふと思ひたち、
そそめきてかしま立ちしぬ。
乾かわきし地は胸さわぎ
けばだちぬ。白楊の落葉
そそくさと先走りしぬ。
土ぼこり、垢膩はそそけて
螺形にすぢりぬ、舞ひぬ。
故知らず、はた何知らぬ
時めきの、さとこそ渦に
くるめきて爪立あがれ、
稈心の唄、葉のしら笑ひ。
ゆきかひの人あたふたと
物音のさわがしきかな。
俳優は走りぬ、――白き
蹠のなまめき。――たたと
ふためくや販ぎ女ふたり。
ふと夢に物おびえして
喘ぐかに經師が家の
招牌もこそ歎きぬ。――ひとり
さりげなき面持、つつと
往きすぐる若き唄ひ女、
あと叫び、つとこそとまれ、
ふくら脛肌しも斷れ、
踝はにじみぬ、朱に。
見ず知らぬ人の誰彼、
はしり寄るひとりは言ひぬ、
「かま鼬妖の使ひ女、
盜食みに生肌をこそ
噛みつれ」と。はた呟やけり、
「肌じろの踝なれば、
淫なる魔の係蹄にしも
落ちけめ」と。あな唄ひ女は、
血醉して顏青ざめぬ。
われならぬ不可思議の世に
見おどろき、さては見入りて、
柔肌のしろき心に、
蝮のもの執念さは、
この日より萌しぬ。風は
そそくさと横走りして、
末廣に街を西へ。――
落葉のみ、呪の古經の
文字の如、殘りぬ繁に。
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