おそろしいものが
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おそろしいものが
背後から迫った
逃げると追いかけてきた
夢中で逃げているうちに
背後のものがおれのなかを通り抜けて
おれの前を去って行った
なんだろうそいつは
そいつはおれに追いかけられているかのように逃げて行く
おれに追いかけられるのを恐れるかのように駈けて行く
あいつはなんだろう
道ばたの人におれは聞いてみた
あれはなんでしょうか
あれは死だと総入れ歯の男が荘重に言った
キザなことを言うとおれは思った
死を知らぬ者にかぎって死を云々する
しかしおれだって死は知らぬのだ
おれは宿屋に入った 古いおれの常宿だ
お帰りなさいと白髪の番頭がびっくりしたように言った
帰ってきたのが意外なような声だ
女中もおれの蒼い顔を見て不気味そうに
どこへおいででしたと言った
おれはスリッパをぴたぴた言わせて廊下を歩いた
しめった地面をあいつが歩いて行った足音を思い出す
おれの部屋は遠く
永久にたどりつけないみたいだ
いやな臭いがする廊下でおれはつぶやく
あれは生だったのではないか
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