失われたタヌキ
本文の表示
おれの幼い頃には
タヌキが徳利をさげて
大ギンタマをぶらさげて
町の酒屋へ酒を買いに来たものだ
しょっちゅう会っているうちに友だちになったのだが
おれがおとなになったら
タヌキはどこかへ消えてしまった
そのタヌキは酔払うと
カッポレを踊ったり
キレイな娘に化けたりして
幼いおれを喜ばせたものだ
うまいうまいとおれは手をたたいた
これなら人間のおとなもころりとだませる
人をだますのは面白いだろうな
ふとタヌキはまじめな顔をして
幼いおれを相手にこう言ったものだ
坊や それは違うよ
人間さまをだますために化けるんじゃない
だまそうとしてだませるもんじゃない
これはおいらの楽しみなのさ
おいらひとりのケチな楽しみさ
坊や あのサクラをごらん
あれだってひとさまのために咲いてるんじゃない
普段ずいぶんとつらいおもいをしているのに
苦労を花に出してないのもえらいもんだ
あんなきたない枝から
あんなキレイな花を咲かせている
上手に化けたもんじゃないか
タヌキの言うことが幼いおれには分らなかった
今は分る
あのタヌキもやっぱりずいぶんさびしい気持だったのだ
今のおれにはそれが分るが
分ると告げたいタヌキが今はいない
すでにおれから失われてしまったタヌキは
もはやふたたびおれに戻ってはこないのだ
ログインすると、お気に入り登録や選集への追加ができます。
ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。
失われたタヌキの談話
疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。
まだ投稿はありません。
失われたタヌキに寄せられた作品
詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。
まだ投稿はありません。
批評・感想 0
作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。
まだ批評・講評はありません。
ログインすると批評・講評を書けます。