郊外の人に

高村光太郎

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わがこころはいま大風の如く君にむかへり 愛人よ いまは青き魚の肌にしみたる寒き夜もふけ渡りたり されば安らかに郊外の家に眠れかし をさな児のまことこそ君のすべてなれ あまり清く透きとほりたれば これを見るもの皆あしきこころをすてけり また善きと悪しきとは被ふ所なくその前にあらはれたり 君こそは実にこよなき審判官なれ 汚れ果てたる我がかずかずの姿の中に をさな児のまこともて 君はたふとき吾がわれをこそ見出でつれ 君の見いでつるものをわれは知らず ただ我は君をこよなき審判官とすれば 君によりてこころよろこび わがしらぬわれの わがあたたかき肉のうちに籠れるを信ずるなり 冬なれば欅の葉も落ちつくしたり 音もなき夜なり わがこころはいま大風の如く君に向へり そは地の底より湧きいづる貴くやはらかき温泉にして 君が清き肌のくまぐまを残りなくひたすなり わがこころは君の動くがままに はね をどり 飛びさわげども つねに君をまもることを忘れず 愛人よ こは比ひなき命の霊泉なり されば君は安らかに眠れかし 悪人のごとき寒き冬の夜なれば いまは安らかに郊外の家に眠れかし をさな児の如く眠れかし 大正元・一一

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