メトロポオル

高村光太郎

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智恵子が憧れてゐた深い自然の真只中に 運命の曲折はわたくしを叩きこんだ。 運命は生きた智恵子を都会に殺し、 都会の子であるわたくしをここに置く。 岩手の山は荒々しく美しくまじりけなく、 わたくしを囲んで仮借しない。 虚偽と遊惰とはここの土壌に生存できず、 わたくしは自然のやうに一刻を争ひ、 ただ全裸を投げて前進する。 智恵子は死んでよみがへり、 わたくしの肉に宿つてここに生き、 かくの如き山川草木にまみれてよろこぶ。 変幻きはまりない宇宙の現象、 転変かぎりない世代の起伏、 それをみんな智恵子がうけとめ、 それをわたくしが触知する。 わたくしの心は賑ひ、 山林孤棲と人のいふ 小さな山小屋の囲炉裏に居て ここを地上のメトロポオルとひとり思ふ。 昭和二四・一〇

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