心も空に

上田敏

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心も空に奪はれて物のあはれをしる人よ、 今わが述ぶる言の葉の君の傍に近づかば 心に思ひ給ふこと應へ給ひね、洩れなくと、 綾に畏こき大御神「愛」の御名もて告げまつる。 さても星影きらゝかに、更け行く夜も三つ一つ ほとほと過ぎし折しもあれ、忽ち四方は照渡り、 「愛」の御姿うつそ身に現はれいでし不思議さよ。 おしはかるだに、その性の恐しときく荒神も 御氣色いとゞ麗はしく在すが如くおもほえて、 御手にはわれが心の臟、御腕には貴やかに あえかの君の寢姿を、衣うちかけて、かい抱き、 やをら動かし、交睫の醒めたるほどに心の臟、 さゝげ進むれば、かの君も恐る恐るに聞しけり。 「愛」は乃ち馳せ走りつ、馳せ走りながら打泣きぬ。

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