温室

上田敏

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森の奧なる温室、 永久に鎖ざせるその戸、 その圓屋根の下にあるもの、 これに準へて、わが心の下にあるもの。 飢に惱む王女の思、 荒野に迷ふ船乘の愁、 不治の患者の窓下に起る樂隊の音。 さていとも温き隅に行きてみよ。 收穫時のある日に氣絶したる女ともいふべし。 病院の中庭に驛傳の馭者來り、 麋の狩人の成の果なる看護人、かなたを通り過ぐ。 月影にすかし見よ。 (物皆こゝに處を得ず。) 法官の前に狂人立てりともいふべし、 軍ぶね、帆を張りて運河に浮び、 白百合に夜の鳥啼き、 眞晝がた、葬禮の鐘は鳴る、 (かの鐘形の玻璃器の下に。) 平原に病人の舍營あり、 晴れし日に依的兒匂ふ。 あな、あはれ、あな、あはれ、いつか雨ふらむ、 雪ふらむ、風ふかむ、温室に。

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