月の出前の對話

上田敏

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――そりやあ眞の生活もしてはみたいさ、 だがね、理想といふものは、あまり漠としてゐる。 ――そこが理想なんだ、理想の理想たるところだ。 譯が解るくらゐなら、別の名がつく。 ――しかし、何事も不確な世の中だ。哲學また哲學、 生れたり、刺違たり、まるで筋が立つてゐない。 ――さうさ、眞とは生きるのだといふんだもの、 絶對なんざあ、たつ瀬があるまい。 ――ひとつ旗を下して了はうか、えい、 お荷物はすつかり虚無へ渡して了はう。 ――空から吹きおろす無邊の風の聲がいふ、 「おい、おい、ばかもいゝ加減にしなさい。」 ――もつとも、さうさな「可能」の工場の汽笛は、 「不可思議」のかたへ向つて唸つてはゐる。 ――其間唯一歩だ。なるほど黎明と 曙のあはひのちがひほどである。 ――それでは、かうかな、現實とは、少なくとも 「或物」に對して益があるといふことか。 ――そこでかうなる、ねえ、さうぢやないか、 薔薇の花は必要である――其必要に對してと。 ――話が少し妙になつて來たね、 すべては循環論法に入つてくる。 ――循環はしてゐるが、これが凡てだ。            ――何だ、さうか、 なら、いつそ月の方へいつちまはう。

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