信天翁

上田敏

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波路遙けき徒然の慰草と船人は、 八重の潮路の海鳥の沖の太夫を生擒りぬ、 楫の枕のよき友よ心閑けき飛鳥かな、 奧津潮騷すべりゆく舷近くむれ集ふ。 たゞ甲板に据ゑぬればげにや笑止の極なる。 この青雲の帝王も、足どりふらゝ、拙くも、 あはれ、眞白き双翼は、たゞ徒らに廣ごりて、 今は身の仇、益も無き二つの櫂と曳きぬらむ。 天飛ぶ鳥も、降りては、やつれ醜き瘠姿、 昨日の羽根のたかぶりも、今はた鈍に痛はしく、 煙管に嘴をつゝかれて、心無には嘲けられ、 しどろの足を摸ねされて、飛行の空に憧がるゝ。 雲居の君のこのさまよ、世の歌人に似たらずや、 暴風雨を笑ひ、風凌ぎ獵男の弓をあざみしも、 地の下界にやらはれて、勢子の叫に煩へば、 太しき双の羽根さへも起居妨ぐ足まとひ。

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