芭蕉布

山之口貘

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上京してからかれこれ 十年ばかり経っての夏のことだ とおい母から芭蕉布を送って来た 芭蕉布は母の手織りで いざりばたの母の姿をおもい出したり 暑いときには芭蕉布に限ると云う 母の言葉をおもい出したりして 沖縄のにおいをなつかしんだものだ 芭蕉布はすぐに仕立てられて ぼくの着物になったのだが ただの一度もそれを着ないうちに 二十年も過ぎて今日になったのだ もちろん失くしたのでもなければ 着惜しみをしているのでもないのだ 出して来たかとおもうと すぐにまた入れるという風に 質屋さんのおつき合いで 着ている暇がないのだ。

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