彈痕

山之口貘

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アパートの二階の一室には 陰によくある女が一匹ゐた その飼主は鼻高で色はあさぐろいがめがねと指環の光つた紳士であつた 鼻高の紳士は兜町からやつて來た かれの一日は 夜をあちらの家に運び ひるまをこちらの二階に持ち込んで來てひねもす女を飼ひ馴らした かれらの部屋がまた部屋でふたりがそこにゐる間 眞晝間ドアに鍵してすましてゐた 八百屋でござい が來ると鍵をはづし 米屋でござい が來ると鍵をはづし いちいち鍵をはづしては鼻を出し直ぐまた引つ込めて鍵してしまふ ずゐぶんふざけた部屋だつたが すましかへつてゐたある日 外では煙硝のにほひが騷いでゐた 鼻高の紳士は鍵をはづして出て見たがやがてそのまま出て行つた まもなく部屋には物音どもが起きあがりそこらあたりに掻き亂れた いぶる世紀と くすぶる空 鼻高さんはもう歸らない そこに突つ立ち上つたかなしいアパート アパートの横つ腹にぽつこりと開いたひとつの穴だ そこからこぼれる食器や風呂敷包 そこからはみ出る茶箪笥と女

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