鼻のある結論

山之口貘

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ある日 悶々としてゐる鼻の姿を見た 鼻はその兩翼をおしひろげてはおしたたんだりして 往復してゐる呼吸を苦しんでゐた 呼吸は熱をおび はなかべを痛めて往復した 鼻はつひにいきり立ち 身振り口振りもはげしくなつて くんくんと風邪を打ち鳴らした 僕は詩を休み なんどもなんども洟をかみ 鼻の樣子をうかがひ暮らしてゐるうちに 夜が明けた ああ 呼吸するための鼻であるとは言へ 風邪ひくたんびにぐるりの文明を掻き亂し そこに神の氣配を蹴立てて 鼻は血みどろに 顏のまんなかにがんばつてゐた またある日 僕は文明をかなしんだ 詩人がどんなに詩人でも 未だに食はねば生きられないほどの それは非文化的な文明だつた だから僕なんかでも 詩人であるばかりではなくて汲取屋をも兼ねてゐた 僕は來る日も糞を浴び 去く日も糞を浴びてゐた 詩は糞の日々をながめ 立ちのぼる陽炎のやうに汗ばんだ ああ かかる不潔な生活にも 僕と稱する人間がばたついて生きてゐるやうに ソヴィエツト・ロシヤにも ナチス・ドイツにも また戰車や神風號やアンドレ・ジイドに至るまで 文明のどこにも人間がばたついてゐて くさいと言ふには既に遲かつた 鼻はもつともらしい物腰をして 生理の傳統をかむり 再び顏のまんなかに立ち上つてゐた

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